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🫁 慢性閉塞性肺疾患(COPD)について

2025.04.17

慢性咳嗽を呈する疾患の鑑別の中でも重要な疾患の一つが、**慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)**です。COPDは、気流制限を特徴とする進行性の呼吸器疾患であり、主に喫煙を契機とした有害ガスや粒子の長期暴露によって生じます。一般的には「肺気腫」「慢性気管支炎」といった呼称で知られることがありますが、これらはCOPDに包含される病態の構成要素を示しています。

📊 疫学と有病率

世界的に見てCOPDの罹患率および死亡率は上昇傾向にあり、WHOの2019年の報告では、COPDは全死因のうち第3位を占めています。日本においても、NICEスタディ(Nippon COPD Epidemiology study)によると、40歳以上の人口における有病率は**約8.6%**とされ、特に男性および高齢者に多く、全国で推定約530万人が罹患していると考えられています。

📖 病態生理と定義(ガイドラインより)

日本呼吸器学会による『COPD診断と治療のためのガイドライン2022』では、COPDは以下のように定義されています。

「主にタバコ煙などの有害物質の長期吸入暴露によって惹起される呼吸器疾患であり、スパイロメトリーにて非可逆的な気流閉塞を呈する。気流閉塞は、末梢気道病変(small airway disease)および肺気腫性病変(emphysematous changes)の複合的関与によって生じる。臨床的には、進行性の労作時呼吸困難、慢性的な咳嗽・喀痰を呈するが、症状が乏しいこともある。」

🔬 発症機序と病態構造

COPDは、主に喫煙による慢性的な炎症性変化により、気道および肺実質の構造的破壊を引き起こします。炎症は中枢気道から末梢気道、さらには肺胞に至るまで多岐にわたり、以下のような形態学的変化が生じます。

中枢気道では杯細胞や粘液腺の過形成により過剰な粘液分泌(慢性気管支炎)をきたします。

末梢気道では気道壁の肥厚や閉塞により気流制限が発生します。

肺胞では壁構造が破壊され肺気腫性変化を呈し、肺の弾性収縮力(リコイル)が低下し、換気血流比の不均衡によるガス交換障害が進行します。

このように、COPDの病態は「慢性気管支炎型」「肺気腫型」という病型に分けられ、それぞれが異なる割合で関与する混合病態として存在します。

😮‍💨 臨床症状と進行

COPDの代表的な症状は、労作時の呼吸困難、慢性の咳嗽および喀痰ですが、早期では無症候性のこともあり、発見が遅れる要因となります。労作時呼吸困難は、特に階段昇降や坂道歩行などの身体活動において顕在化しやすく、進行とともに安静時にも症状が出現するようになります。

肺気腫の進行により肺胞の構造的破壊が高度になると、換気効率の低下により二酸化炭素の貯留が生じ、高二酸化炭素血症や呼吸不全へと進行する場合があります。

また、症状が明らかになる時点ではすでに呼吸機能が不可逆的に低下していることが多く、喫煙を中止しても完全な回復は見込めません。

🧪 診断基準と検査

COPDの診断には、**呼吸機能検査(スパイロメトリー)**が不可欠です。特に以下の3点が診断の要件となります(日本呼吸器学会ガイドライン2022):

  • 有害物質(主に喫煙)への長期曝露歴

  • 1秒率(FEV₁/FVC)<70%

  • 気流制限を来す他疾患の除外

スパイロメトリーでは、努力性肺活量(FVC)および1秒量(FEV₁)、並びにその比率(FEV₁/FVC)を測定し、非可逆的な気流閉塞の存在を確認します。COPDでは、特に呼気流速が著しく低下し、1秒率の低下が顕著です。イメージとしては、狭窄した気道を通じて呼気を行うような状態であり、患者は「息が吐ききれない」と表現することがあります。

🔍 鑑別診断と早期発見の重要性

COPDと類似した症状を呈する疾患には、気管支喘息、気管支拡張症、肺結核後遺症、間質性肺疾患などがあり、これらの鑑別には呼吸機能検査に加えて**胸部画像検査(X線、CT)**が重要です。

特に気管支喘息との鑑別はしばしば困難であり、両者が併存する**ACOS(Asthma-COPD Overlap Syndrome)**の存在も考慮する必要があります。

⚠️ 未診断・未治療の課題と今後の展望

現状、COPDは早期では無症候性であることが多く、多くの患者が未診断・未治療のまま進行しているとされています。軽微な咳嗽や喀痰、あるいは「年齢や運動不足のせい」と誤認された軽度の呼吸困難が、実は初期のCOPDであることも少なくありません。

さらに、COPD患者は感染症(肺炎、インフルエンザ、COVID-19等)罹患時に重症化リスクが著しく増加することが知られており、適切な管理と早期介入が極めて重要です。

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